相続時の共有持分のメリット・デメリット
相続の際に問題になりがちなのが、不動産をどのように相続するかということです。
1つの不動産を相続の割合に応じて分割できれば話は早いのですが、土地を細かく仕切ったり、ましてや家を半分に割ったりすることなどできませんよね?
「売ってお金に換えてしまえば、公平に分け前を分配できるのでは・・・?」
しかし、相続人の中には「売りたくない」と反対する人がいる・・・
「1人がまとめて相続し、残りの身内の方には、相続分のお金を支払えば、家も残せるし公平に分けられる・・・」
しかし、そんなまとまったお金を持っていない・・・
以上のように、不動産の相続は、なかなか結論が出ないことが少なくありません。
そんな時に、しばしば取られるのが共有持分という選択肢。
相続する財産を、相続人全員で不動産の所有者になる、というものです。
また、遺産分割の協議がまとまらなかったときにも、不動産は相続人全員の共有不動産になります。
共有不動産は、相続の割合に応じて不動産の権利・義務を負担するというものなので、ものすごく公平なものです。
しかし、一つの不動産を複数人で管理するという少し特殊な権利なので、メリットやデメリットがいくつか発生します。
まずは、メリットとデメリットについてそれぞれ解説します。
相続時の共有持分のメリット
共有持分は、デメリットが指摘されることが多いのですが、相続時においては2つのメリットがあります。
- ①ひとまず公平に不動産を分配できる
- ②相続税の減免処置を受けられる
不動産の相続は、計算方法や評価の仕方から、金額が大きく異なってしまうことも珍しくなく、公平に相続するのが難しいものです。
不動産を共有にする場合は、不動産の状態を変更しないまま、権利だけを相続の割合に応じて分配するので、とても公平です。
相続財産が3,600万円を超えると、遺産相続の際に贈与税が発生する可能性があります。
(相続人の人数によって、課税対象金額が変わります。計算式は以下の通り
3,000万円+600万円×相続人の人数)
参考:国税庁HP「相続税の計算」
例えば5,000万円の価値の不動産を2人で相続する際に、どちらか1人が単独で不動産を相続する場合について考えてみましょう。
5,000万円-(3000万円+600万円×2人)=800万円
→この場合、800万円分は贈与税の対象になってしまいます。
しかし、共有持分とした場合には、2人の相続人がそれぞれ2,500万円ずつの権利を取得するので、贈与税がかかりません。
※贈与税は、相続財産の合計で考えなければならないので、もし預金などの財産が他にある場合には贈与税の対象になってしまう可能性があります。
相続時の共有持分のデメリット
一方で、相続時に不動産の共有を選択することは「問題の先送り」と言われることもあり、デメリットについて指摘されることが多いです。
主なデメリットは、次の4点です。
- ①手間がかかってしまう
- ②長く共有状態が続くと、権利者が増えてしまう可能性がある
- ③トラブルが発生しやすい
共有持分は、自由に売却やリフォームができないなど、さまざまな制約がついています。
そのせいで、トラブルが起こりやすいという問題をはらんでいます。例えば、以下のケースです。
- ・相続人の1人が、勝手に共有不動産を売却しようとしてしまうケース
- ・共有物件の方向性について、家族間で方向性が合わず、関係性がギクシャクしてしまうケース
- ・共有物件に、相続人の1人が住むことになり、その代わり他の権利者に家賃を支払うハズになっていたが、家賃が支払われなくなってしまうケース
- ④売れにくい
共有持分には、多くの手間がかかります。
まず、相続時には不動産登記の手続きを、共有権者全員が行わなければなりません。
登記手続きは、司法書士などの法律の専門家に依頼することもできますが、その場合、依頼費用がかかります。
また相続した不動産を、相続人のうちの1人が利用する際には、他の共有権者に対して、家賃相当額を支払わなければならなかったり、賃貸物件として運用する際には、持分に応じて賃料を分配しなければならなかったりするなど、何かと手間がかかります。
共有権者の一人が万が一亡くなってしまったとき、亡くなった人の共有持分は、その人の相続人に相続されることになります。
その結果、共有権者がさらに増えてしまったり、面識のない人が共有権者になったりすることがあります。
共有持分のトラブルについては「共有持分の売却トラブル4事例!リスクが分かれば、失敗しない 」の記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧ください。
共有持分の物件は、売却しづらいという事情があります。
ここまで紹介したように、共有持分にはさまざまな制約がかかってしまうため、第三者が取得しても、メリットより煩わしさが圧倒的に勝ってしまうためです。
共有持分を相続した時にはどうしたらいいの?
メリット・デメリットをご自身の物件と照らし合わせてみると、メリットが大きいと感じられたでしょうか?それともデメリットが大きいと感じられたでしょうか?
物件によって条件が異なりますが、共有持分を相続する方の中にはこんな風に困っている方もいます。
「メリットがないのに売れない・・・」
「共有持分を相続したことで、家族間での関係がギクシャクしてしまうから、早く手放してしまいたい・・・」
この章では、そんな悩みをスムーズに解決するための方法について解説します。
共有持分を売却する
最も確実、かつ簡単な方法は、共有持分を売却することです。
共有持分は、持分の範囲内であれば他の共有権者の同意がなくても、自由に売却することができます。
(不動産全部を売却するのは、共有者全員の同意が必要です)
ただし、前の章で説明した通り、一般の人や大手不動産会社はなかなか共有持分を買い取ってくれません。
買い取ってくれるのは、共有持分の買取専門業者です。
買取専門業者は、一般の不動産業者とは異なり、共有持分などの訳ありの不動産の買取を専門にしている業者です。買取専門業者なので、問い合わせから数日で査定まで進み、スムーズに売却手続きを完了させることができます。
共有持ち分に基づいて分筆する
分筆とは、1つの不動産を小さく分割して、それぞれの単独の所有者とすることです。
相続した不動産の面積が広くて、分割しても使い勝手が悪くなったり、資産価値が下がったりしないようなときには、考えられる対処法の一つです。
注意すべき点は、分筆することについて共有権者同士で意思統一できていることと、公平に不動産を分筆することが求められるということです。
共有権者同士で協力して物件を売る
共有権者同士で協力して不動産を売る方法もあります。
共有権者全員で協力をすれば、購入者は100%の所有権を持つことができるため、通常の不動産の所有権と同じ権利を得ることができます。従って、資産価値を下げずに物件を売却することができます。
共有権者全員が、共有財産を売却することで方向性が一致している場合には、とてもスムーズであり、損失の少ない売却方法です。
共有持分を放棄する(相続放棄と持分の放棄)
リスクを最小限に抑えたいときには「放棄」という選択肢もあります。
放棄には、相続放棄と持分の放棄の2通りの対応方法があります。
◆相続放棄
相続放棄は、相続人としての立場を放棄することです。相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったとみなされることになります。
ABCの3人がそれぞれ3分の1ずつ共有持分を相続した時に、Aが相続放棄を選択すると、BとCがそれぞれ2分の1ずつ共有持分を相続するということになります。
相続放棄は、相続を知ってから3か月以内に申請しなければなりません。
また、相続放棄をするとその他の財産を全て相続できなくなってしまいます。従って、多くの資産を相続するケースや、どうしても他人には譲りたくないものがある方は、相続放棄を選択すべきではありません。
◆共有持分の放棄
共有持分の放棄をすることも可能です。
「放棄」と言われていますが、イメージ的には「譲渡」に近い感覚です。不動産の価値によっては、譲渡税がかかってしまう場合があることに注意が必要です。
共有持分の放棄については「共有持ち分は放棄よりも売却の方がお得で手間なし⁉理由を解説」にて詳しく解説しているので、興味のある方は、ぜひご覧ください。
まとめ
相続財産を共有状態にする際には、以下のメリット・デメリットがあります。
(共有状態のメリット)
・贈与税の減免施策が受けられる
・公平に不動産を分けられる
(共有状態のデメリット)
・売れにくい
・権利者が後々増えてしまう可能性がある
・手間がかかる
・トラブルが生じやすい
これらのトラブルを避けるためには、スピーディーな対処をして、速やかに共有状態を解消することが効果的です。
記事の中では4つの対処法を紹介していますが、特におすすめする方法は、共有持分の売却です。
なぜなら、共有持分の売却は他の共有権者の同意を得ることなく、単独で手続きを進めことができるためです。
さらに、スピーディーかつ確実に現金化することができ、その後の手間や税金・維持費などの費用負担や、家族間での話し合いの精神的負担からまぬがれられる点も、大きなメリットといえるでしょう。
監修者:ドウスル株式会社 代表取締役 村田 大介